初めてのヨット Coo を入手してからもう直ぐ1年に成ろうとしている。
喫水84㎝と言う理由だけで何も知らずに買ったヨット。
クルージングを繰り返しこの艇の良い所、悪い所も解ってきた。
今まで行って無い所へ行って見たい。と、言う思いがふつふつと湧いてくる。
そう言えば、南に行っていない。悩んだ末、行先は白浜に決まった。
陸路では、何度も行っているが、海からはもちろん初めて。
入れる港も解らない。もちろん海図なんて言う物も持っていない。
でもCooなら 港があれば何とかなる。
今、思えば 空恐ろしい発想である。
(今も、あまり変わってはいないが、)
次の土曜日 決行と決める。
前日、眠れない。遠足前の子供である。
子供と違うのは、ごそごそ起きだして艇に向かう。
途中の24時間スーパーで食料と飲料水を買い
艇に潜り込んで やっと落ち着いて寝る。
朝、目を覚ます 舷窓から見える西の空はまだ暗い。
ハッチを開けて顔を出すと東の空がほのかに白い。もうすぐ夜明けだ。
眠いのでも一度寝る。睡眠不足は、航海の敵だ。
7時の目覚ましで起きて、まず湯を沸かす。後ろの舫い1本を残し出航準備をする。
暖かいコヒーとサンドイッチを持ってスターンへ。
何か ぞくぞく する。風邪では無い
知らない海は未知がいっぱいだ。当たり前か。
最後の舫いを海に落とし、ソロソロとバックで出る。
方向転換が終わった所でコヒーを一口、タバコに火をつける。
煙をくゆらせながらゆっくり港口へ向かう。
港口を出た所でスロットルを開けティラーを自転車のゴム紐で結び朝食に取り掛かる。
この艇はゴム紐で縛っておくと、ほおって置いても真っ直ぐ進む。
本来ティラータマ―とかいう物を使うらしいが、貧乏セイラーは、ゴム紐で十分。
艇もそこの所 良く解っている。
黒島の間を抜け、白崎を回ると其処は紀伊水道。
此処からは岸に沿って南進する。
由良の湾口を過ぎると遥か彼方に日ノ岬が見えて来る。
由良湾は、海上自衛隊の潜水艦が修理と点検に入って来る。
たまに漏水試験なのかセイルだけ海面に出して沈んでいる姿を見ることが有る。
海岸に沿って初めての景色を楽しみながら南下する。
幼いころは。汽車(のちディーゼルのち電車)で、中学生の頃は親父の車…
のち自分のバイク→車で数えきれないほど通った陸路。海路で行くのは初めてである。
改めて入り組んだ海岸線に点在する小さな魚港や小さな岬、岩礁に砕ける白波を眺めながら進む。
思えば、遥か昔 山本コータローとウイークエンドの「岬めぐり」と言う歌に誘われバイクに乗って野宿しながら高速を通らず(高速は、東名・名神しか無かった)
ひたすら海岸線を走り岬を回った覚えがある。よしっ、今度は、海から岬めぐりをしよう。
定年後に成るだろうが、目的が出来た。
最終目的地は、納沙布岬と、思われるだろうが、一番行きたいのは、その時道が無くて行けなかった知床岬だ。(今も道が無くて行けないが、)
最終目的地が決まった所で、今は、目前の目的地「白浜」を目指す。
日ノ岬が近づいて来る。出雲の日御碕では無い。字が違う。
風も無いのに波が出てきた。岬に近付くに連れ大きくなる。舳がぶれるのでティラーのゴムを外し手で握る。
大きくなると言っても50センチ 位。でも変な波 一方方向へ向かうのでは無く沸騰する様にその場に無数に波が立つ。
此れが三角波?沖の方を見ると静かそうなので岬から離れる方へ舵を取る。
後で解った事だがこの辺 海流の有る所では、潮の流れが岬に当たり返って来る波と潮の流れとがぶつかって三角波が立つらしい。
因みに此の辺りとは、潮岬・室戸岬(黒潮) 日の岬・瀬戸内海全域・から愛媛県の佐田岬(経験した所)まで。
ただ、本州最南端 潮の岬は、とんでもない と、だけ言っておこう。
岬を離れ遠回りに成ったが、此処からは、南東に向かう。
御坊を過ぎると景色が一変する。
小さな入り江や岩礁が入り組んだ海岸線が、岬を一つ越えると、ほゞ一直線の海岸になる。陸からは解らなかった世界だ。
そう言えば、子供達と海亀の産卵を見に来たのはこの辺のはず。海亀の母親は昼間この景色を見て、場所と安全を確認して夜更けに上陸する。今、海亀の母親と同じ景色を見ている。
航行が単調になったのでカップ麺の昼にする。
そうこうしていると田辺湾の湾口が近づいて来る。此処は、湾を通り越して対岸の先端を目指す。
そこが、目的地 白浜・・・のはず。
陸路で通いなれた白浜だが、海から来ると未知の世界だ。
こんな事なら道路地図でも持って来るんだった。
対岸が近づいて来る。 手前に小さな岬が有る様だ。近付くにつれ 一つの岬に見えたのは、小島の集まりだと解る。田辺湾は、小島と浅瀬の迷路だと聞く。
初めてのヨットは案内無しで入ってはいけないと言う。此処がその始まりらしい。(年に何艇かは座礁するらしい)
距離を取るため大回りをする。岬の影からもう一つ島が見えて来る。
円月島だ。三段壁・千畳敷と並ぶ白浜の代名詞の一つだ。
やった、白浜に着いた。
此方から見ると岬の後ろは、入り江に成っている。
何時も入り江沿いの道から見ていた円月島を反対側から見ている。 入り江の奥にはグラスボートの船着き場が有る。
なら Cooは、入れるはず。そろそろとCooを進める。海が澄んでいる。
海底が見える。 岸に寄り過ぎない様に注意してUターン。
此処で記念写真をパチリ。
長居は、無用 そろそろとCooを外に出す。
時間も時間なので今夜の泊地を探す事にする。
知らない場所なので暗くなる前に何処かへ潜り込みたい。
田辺湾の奥へ進路を取る。右手は小島と浅瀬が点在する危険地帯。この中に「綱不知」(つなしらず、と読む)と言う
名前通りの静かな入り江の奥に桟橋が有るのだが、
今回は案内がないので諦める。
一番奥まで来た。左へ進路を取り岸壁に沿って進む。
港が点在する様だ。一番空いてそうな港の開いている岸壁にCooを舫う。
まず、する事は、空近くなった燃料タンクに予備タンクのガソリンを移し、予備タンクをコロコロに載せてガソリンを買いに行く。
国道に出れば有るだろう、と 国道と思われる方へ歩いて行く。国道に出る前に有った。
ガソリンを入れて貰いながら「何処から来た」と聞かれたので、「和歌山から来て其処の港に留めている」と言うと。
「送って上げよう」と軽のローリーで送って貰った。ラッキー!
艇に着いて先ずするのは 岸壁で買ってきた予備タンクのガソリンを 混合にする。混合にしていないガソリンは、艇に載せない。此れは鉄則である。
もし混合にしていないガソリンを艇に積んで忘れて使ったら命とりである。
先ほど歩いた範囲には食べ物屋さんが無かったので
お湯を沸かしてレトルトカレーにする。一緒にパックライスをぶち込む。パックライスは、便利だ、何時でも何処でも御飯が食べられる。常温でもつのでクルージングの必需品だ。
晩飯を食べるとする事がない。今度は本を持って来よう。
暇なのでコーヒーを入れて、ラジオを持ってコックピットに出る。煙草に火を付けて ラジオのスイッチを入れる。
甲斐バンドの特集をやっている。
「安奈」を聞きながら星空を見上げる。
「貴方は、今、何処でこの星空を見ているのですか。」
柄にもなくロマンチックな事を考える。
ヨットは、人をロマンチックにする。
翌朝、出航準備に掛かる。暖機の為エンジンを掛ける。
あれっ、水が出ない。ニュートラルのままアクセルを開閉する。やはり出ない。アイドリングのまま前進・後退に入れて見る。
それでも出ない。 ヤバっ 帰れないかも知れない。
辺りを見回すと、少し離れたところにヤマハの看板が見える。
やったー、天の助けだ。憑いてる。(何が憑いているのだろう)アイドリングで温度を上げない様にそろそろと進める。
やっとたどり着いて、店の人に事情を説明する。しかし、今日は、急ぎの先客が有って見れないと言う。
「ヨットなら帆走で帰れるでしょう。今から釣りに出る船が有るから 沖まで引っ張って貰えるよう頼んで上げる」
温かいのか、冷たいのか解らないお言葉。
体よく追い払われた様だ。
本人の了解も得ず、曳航の準備が進む。(天は、我を見放した)
仕方なくプレジャーボートに引っ張られながら港を出る。
空耳か、ジョーンバエズのドナドナが耳元に虚しく響く。
引かれて行く子牛の気持ちが解る様になった。
暫く揺られて田辺湾の外に出た。プレジャーボートは、早い。
「この辺で良いですか~」と声を掛けられて、不本意ながら、「有り難う御座いま~す」と元気な声で答え、ロープを外す。
エンジンを掛けるが相変わらず水は出ない。ボートの人が心配したのか戻ってきて、
「水の出口を細いもので突いてごらん、大概は、それで治るから」と、教えてくれる。細いもの?キャビンの中を探す。
有った。コンビニの箸に付いている爪楊枝。
アイドリングのまま 身を乗り出し爪楊枝の先で吐出口をつつく、おっ、少しでた。今度はこけしの方でつつく。
ぶじゅ、ぶじゅと手に海水が掛かる。爪楊枝を抜くと ピューと海水が出た。ヤッター これで帰れる。
まだ 神様には見放されていない。
見守ってくれて居るボートの方に大きく手をふり、大声で「直りました~、有り難う御座います~」
悪く言われますが、ボートの人の中にもいい人は居る。
スロットルを開け、北西に進路を取る。
振り向いて、去りゆくボートにもう一度さらに大きく手を振る。もう見ていないかも知れないが「貴重な釣り時間を無駄にして見守ってくれた気持ちに、お礼と、感謝を込めて、」
(以来コンビニの箸の爪楊枝は、我が艇の貴重品に成った)
帰りも順調な航行をする。
時間がずれているので日ノ岬は、又連れ潮に成った。
潮の流れの強さなのか、方向なのか、来た時より三角波が小さい。20~30㎝位である。
此れならそのまま進める。
断崖・絶壁の日の岬の下を通り過ぎ、何気なく、真横の海面を見ながら進む ? ? ?
何か違和感が、何か違う、何か居る、・ ・ ・
あった、三角波に紛れて、30㎝位のグレーの三角形が!イルカ系の鎌形の背びれでは無い。サメだ!ジョーズだ!
30㎝の背びれの波の下が50㎝である筈が無い。
何と言うサメだろう?大きさは? 2m? 3m?シュモクザメが出ると聞いた事はある。それかな?
サメを見るのは初めて。恐怖より 好奇心が先に立つ。
近付いて、見たいが、逃げると嫌なので、逸る心を抑えて伴走する。
暫くすると何かを見つけたのか静かに潜って行った。興奮が収まらない。初めて見た 大型海洋生物。
しかもサメだ。しまった、興奮し過ぎて写真を撮るのを忘れた。一生の不覚で有る。
教訓
カメラは何時も手元に。
その後、μ と言うカメラを買った。
耐震・防水、揺れる艇の上で落ちてぶつかっても大丈夫、
そのままで10m潜れる優れもの。
筆者 湯浅Cooⓒ2016 All Rights Reserved.