最近 ヨットBBSと言うのを良く見ている。良くと、言うかほぼ毎日見ている。
ヨットに乗り始めて4年位過ぎ、(10年位前の話)転職の時出来た休暇を利用して四国一周もした。
いっぱしのヨットマンを気取りたまにカキコもしている。
ある日、何時もの様に見ていると、「ヨットに乗って見たい。誰か乗せてくれませんか」と言うカキコが有った。
住所は、和歌山県 田辺 名前は某氏。誰が返事するのだろう、と2,3日傍観していたが、誰も返事を書かない。
2ページ目に行ってしまいそうだ。
このまま見過ごすのは、地元のヨットマンとしては、面子が立たない。
日にちは、過ぎているが、取敢えずカキコしてみる。
あくる日カキコが有った。携帯番号が書いてあったのでCメールを送る。
風来坊師匠にも連絡を取り。体験の日取りを決める。
その後、私の艇にも乗りに来た。
その某氏が、いきなりヨットを買った。
艇種は、「なかよし295」船齢は20年以上。場所は神奈川。
私に連絡してきた、
和歌山マリーナまで陸送してくるので、そこでマストを立てるので、回航を手伝ってほしいと、
和歌山~田辺間の短い回航だが、知らない艇で(オーナーも見るのも乗るのも初めて)ちょっと不安が残る。
日にちは、大丈夫だったので引き受けるが、不安が消えない。
そこで今は、神戸にいる大先輩と言うより先生の加集さんに応援を頼む。
ヨット大好きの加集先生は、二つ返事で引き受けてくれる。
状況は話したのだが、この人に不安と言う文字は無いのだろうか。
ヨットで和歌山~田辺まで乗れると言う期待の方が大きいらしい。生粋のヨットマンだ。
前日、加集さんは、家に泊まってもらい、当日私の彼女に送ってもらいマリーナへ行く。
艇は陸送車から船台に移されマストを立てている。
ここで問題が起きる。
マストは、立てたが、リギンを調整している時間が無いと言う。このまま機走で田辺まで。
空は、晴天、風は微風 調整をしていないとは言え倒れないようには締めてある。
「よしっ 行こう」と、言う事に成った。
決まれば急いだ方がいい。早々に艇を下してもらい。
弁当・飲み物を積んで出航する。
堤防の先に立つ クジラの「わっくん」を回ると万葉集に歌われた和歌浦湾。
台風前には、本船の避難場所に成る広い湾。
此処は、10m前後の砂の海底が延々と続く。
そのせいで大きい波が立たないのだろうか、南に進路を取る。
沖ノ島、地ノ島に続いて東燃の石油コンビナートが見えてくる。夜は、照明がとても綺麗に見える。
昼間は、運がよければ マンモスタンカーの離岸・着岸が見れる。
数隻のタグボートが押したり・引いたりしながら、されるがままのマンモスタンカーを着岸させていく。
沖ノ島、地ノ島の間を抜けると 左手に有田川の河口。
正面は、宮崎の鼻。宮崎の鼻の向こう側は、湯浅湾だ。
今の所不安は当たらず 期待を裏切り 航行は、順調に進んで行く。
湯浅湾を通り過ぎようとする時 加集さんが違う方向を見ている。釣られて見ると 西の空が黒い。
見る見る近づいて来る。低気圧だ。
「入れる港無い?」と加集さん。
此処なら近すぎて入ったことは無いが衣奈漁港が有る。
今なら 黒島を抜けて衣奈漁港へ入れるかも知れない。
湾内へ進路を取る。漁船やモーターボートが波を蹴立てて
追い越して行く。此方は、引き波にバウを立てる余裕も無い。
左右に揺さぶられながら よたよた と港を目指す。
テラーを握る左手に ぽつぽつと雨が落ちる。
来た と思う間もなく段階を飛ばしていきなりドッシャーと豪雨が落ちて来る。
豪雨と豪雨が海面に当たる飛沫で艇の周りに半径20m位の 白い壁が出来る。
一瞬 黒島が頭をよぎる。正面に来たら躱せない。
「無理っ、沖出しするっ」
叫ぶと同時に 同意も求めず左手は、舵を目一杯引いている。
艇が西を向いた時には既に風と波が来ていた。
風速 猛烈、波の高さは、2~3m 豪雨の中ひたすらマストの風見を見上げながら艇を風に立てる。
此処は、Cooと私にとって庭なのだが、記憶が正しければ気がかりが一つ、左斜め後方に岩礁が一つ有ったはず。
確認して貰おうと、ちらっと 某氏を探すと、大きくピッチングを繰り返す中 声も出さず スターンの手すりにしがみ付き両足を突っ張って体を固定している。
目が合うと頷いている。大丈夫と受け取る。喋れ無い様だ。邪魔に成らない様にしているらしい。
助は、要らなさそうだが、何かを頼める様子ではない。
加集さんは?と言うとキャビンの入口に座り両手で体を支え中を覗いている。
そうだ、GPSが有った。
振動子(違うかな?)は、まだ付いてないが、電源が入るので位置は、解る。流石 加集さん。慣れている。
岩礁を尋ねると既に確認済み。初めての海なのにベテランは、違う。
(思えばGPSで港に入れたとしても この風と波では、岸壁に艇をぶつけて 一人位落水を覚悟せねば成らない。浅瀬も解らない。思い出さなくてよかった。)
距離は 十分有ると言うので操船に専念する。
操船と言ってもひたすら風見を見上げ足の裏で艇の動きの前兆を読み風に船首を立てる。
雨粒で目ん玉が痛いが、左に持って行かれると悲惨な目に合うので踏ん張るしかない。
暫く経って「加集さん距離は?」「変わって無い」
げっ、進んで居ない。危険は遠ざかって居ない。
増々操船に集中する。 風見を見詰めていると、落ちて来る雨粒が見えるアドレナリンが出てるかも(何か思い出した?)
力が入りそうな左手は、舵を取られない程度に力を入れ船首の振りに合わせ小刻みに動かす。
時間にして15分~20分位。時計を見る暇も無かった。
雨が小雨になると同時に風と波も収まって来た。
低気圧は、来た時と同じように突然に去って行った。
青空が帰って来た。
視界が開けると、名残の白波が残る海面に、逃げ遅れたか、甘く見たか ぽつぽつと、白い船影が見える。
穏やかな航海日和に成ったので舵を某氏に渡し昼飯にする。
加集さんに「なんで私に任せたの?」って聞くと、「地形を知っているし、すでにそれだけの経験を経ている」と、嬉しい返事。
「現に沖出しの判断は、正しかった」と「10年以上ヨットを持っていても大阪湾を出た事もない連中だと任せられない」と、
「ヨットのスキルは、年数でなく何を経験して来たか」だそうです。(何か経験したかな?)
加集さんに褒められた。一人前に見られた、めちゃ嬉しい。
某氏に感想を聞くと「凄かったけど二人の落ち着いた態度を見て安心していた。ただ邪魔に成らない様にしていた」と、
「話には、聞いていたヨットの安定性を身を以て知ったと」
(私のかじ取りの成果です。エッヘン)
(風上を外して横波を食らっていたらきっとそんな事は言って無い。「二度とヨットには乗らない」と、最初の感想がその後を決める。
私は一人のヨットマンを救った。 船酔いもせず良く出来た新人です。先が楽しみ。(怖い、の間違いかな)
後はお楽しみも無く景色を楽しみ 無事 田辺海洋スポーツセンターへ着岸。
本日の報酬 回転寿司を頂き 自腹で帰りの電車に乗った。
此奴は大物に成らん!で、此奴は、今、田辺海洋スポーツセンターで諸先輩を押しのけて番を張っている。
某氏の教訓 その①
「急に海が荒れて来た時、無暗に知らない港に入るのは返って危険で有る。岸に近い時は沖出しする勇気が必要」。
筆者 湯浅Cooⓒ2016 All Rights Reserved.